今回ご紹介するのは、ツユさんの曲の一つ、「かくれんぼっち」です。
以前紹介した「くらべられっこ」や「ナミカレ」を見ていた方はわかると思いますが、相変わらず少女の絵柄は可愛いものの、非常に重く、つらい曲です。というよりツユさんの曲の中でも1,2を争うほど強力なネガティブソングかと思われます。
しかし、だからこそ、他人から見たら深く考えすぎだとか、重く思いつめ過ぎだとか、ネガティブに寄り添わない人たちより、どうしようもないほど辛い状態である人たちに救いをもたらすことができる曲とも言えるでしょう。
曲全体はきれいな音色を持つ印象を持っているからこそ、より悲壮感が伝わります。
今回は特に気になった歌詞の部分をとりあげて、感想を述べたいと思います。
劣等感の果て
「生きてるだけ無駄だって私のことなんて見放してよ」
かくれんぼっち ツユ
曲の一番最初、そしてサビに入る前に必ずこの言葉が出ます。
現実で誰かにこんなことを言われて平静を保つことができる人がいるでしょうか。無慈悲な人は「お前なんか生きてたって無駄」と言うかも知れませんが、普通の感性だったら聞いているだけでも苦しい言葉です。
とはいえ、ここまで追い詰められて自分の存在すら許せなくなるということは分かる人にはわかりますが、わからない人はやはり遠い世界の話なのかも知れません。理解できるのが偉いとか偉くないとかいう話ではありません。ネガティブに陥るのは理由があるはずですが、残念ながら想像するしかないのはがゆいところです。
「くらべられっこ」は誰かとひたすらくらべられてしまい、どこかヤケクソになったような曲ですが、「かくれんぼっち」はもはやくらべられる対象にとして存在することすら嫌がるほど自分が許せず、ひたすら消えることを願うような曲です。
自分の価値なんて全く無い、自分よりもっといい人間なんていっぱいある、自分なんて何をやっても無理、といった完全に心を閉じてしまった少女の言葉が響きます。
孤独が唯一の望み
ずっとかくれんぼっち
かくれんぼっち ツユ
ぼっちという言葉はよくコミュニケーション能力のなさ、友達がいない、孤独という悪口で使われますが、少女の場合は一人誰も見つからない場所に孤独のまま隠れたいという願望が重なり、「かくれんぼっち」となったみたいです。
さきほどの言葉がサビの最初で、最後にこの言葉で締めくくります。
もはや少女は「かくれんぼっち」でいたいのか、そうではないのかすらわかりません。
誰かに気持ちを伝えたいような、でも自分の気持ちを知られたくないような、そもそも自分がここにいることを悟られたくないような。
この曲そのものが悲観と願いという矛盾に満ちています。
空想ですら希望なんてどこにもない
生まれ変わったって来世もその先も全部外れだよ
かくれんぼっち ツユ
よく、宗教などで「今世に絶望して来世の生まれ変わりに期待する」あるいは「前世で罪を犯したから今世が苦しいだけ」という言葉がありますが、もはや劣等感で押しつぶされ、自己肯定感を完全に失った少女はあらゆる救いを拒絶します。
過去にどんなことがあったらここまで絶望するのか、どれだけの挫折があったら自己肯定感を失うのか。全く想像だにできません。
自分が自分でなくなったとしても自分は無駄な存在だと。
ただの推測ですが、もはや自分の理想がどのようなものだったのかということすらわからなくなってしまったのかもしれません。自分と比べる「君」という存在が出てきますが、もはや「君」のような存在になることは無理なのだから、せめてはかなく消える何かになり、そしてそのまま消え去りたいという願いだけが伝わります。
少女の性格は、歌詞からもMVからも伝わりませんが、生まれ変わるものから考えると優しい少女のように思えました。だからこそ、劣等感と自己嫌悪の苦しみに満ちているのかも知れません。
総評
曲自体は非常にきれいで澄んだような印象であり、激しさはあまりないものの、あまりに重く、辛く、悲しい歌詞が特徴的な曲です。
子供の頃に精神的に強く追い詰められた時、少女のような気持ちになった方。
あるいは周りで死にそうなぐらい劣等感に苛まれた人の叫びを聞いたことがある方。
泣き叫んでいるような絵もありますが、その姿が、というよりは、この曲そのものがきれいな音色とあわさり「涙」のような雰囲気を持っています。
限界まで追い詰められるぐらい劣等感と自己嫌悪に陥った方は少女の叫びを聞いてみてください。
「あなたはひとりじゃない」と言うつもりはありません。
「あなたより少女のほうが辛い」と言うつもりはありません。
ただ、あなたの悲しみと重ね合わせて聞いてみてほしいだけです。
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