テーマは「死」。今度は黒猫が地上に降り立った!そして最初から大きな思惑に飲み込まれていきます……優しい気持ちで死を学べます。 黒猫の夜想曲 知念実希人 p406 あとがきなし 光文社文庫

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その他

ちょっとタイトルからはわかりづらいですが、優しい死神の飼い方の続編です。

前作のちょっとした秘密が最初から明らかとなっているのでこちらを先に読むことをオススメいたします。前作の主人公(犬)も出てきますので。

色々調べましたが、一応このシリーズは「優しい死神シリーズ」となっているようです。(前作をお読みいただいた方は「ん?」となるかもしれませんが、ネタバレ防止の為でしょうね)

前作で出てきたちょっと英語が好きで変わった喋り方をした死神の「友達」が主人公です。

先に前作を読んだ方には必要ないかもしれませんが、一応説明しておくと、死んだ魂を主様のもとへ導く死神とも呼ばれる存在が、地縛霊になりそうな人間の未練を解決するために地上の動物へと姿を変えて降り立つというのが基本的なあらすじです。

後でも紹介しますが、ミステリー要素は増えたものの、前作の雰囲気が好きだった方にはもちろんオススメできますし、やはり「死」という概念も深く絡むのでネガティブ要素も大きく含みます。

もともとミステリー、推理ものは作品の関係上、ネガティブとは切っても切れない関係であり、人の事情、時代背景、罪と罰などを理解し、どうしたら克服していくか、あるいは力を強めていくかを考えるのに最適であり、加えてさらに「死」という概念に深くテーマが絡む当シリーズは2つの側面でネガティブ・コントロールに役立つと言えるでしょう。

……正直、ミステリーなのにネガティブ感があまりない作品もありますが、それはおいおい……。

では、今作について紹介していきます。

あらすじ

英語が大好き、ちょっと変わり者の死神はとある死神(どこからか犬の鳴き声が……)に推薦されることによって黒猫の姿に変えられ、地縛霊となりそうな人間を救う役目を与えられてしまいました。猫の体で何かと苦労している中、ある災難をたまたま出会った女性の魂によって救われます。本来の仕事である、主様のもとへ導こうとする黒猫ですが、彼女は未練を抱えつつも記憶をなくしており、説得の糸口すら見当たらない状態でした。

そこで、死神の協力により、病院で寝たきりのなっていた女性、白木麻矢の体を借りることで、彼女は記憶の手がかりを探すと同時に放っておけば死後に地縛霊となってしまう未練を抱えた人々を救うために、クロと名付けられた死神とともに行動していくことになります。

死神の力を使えるクロは数々の魂を救っていくのですが……。やはり、関係のないような一つ一つの出来事が影で繋がり大きな闇が見えてくることになります。

そして、闇は体を借りた少女を中心に大きくなっていくのです。

前作よりミステリー要素がアップ、暖かさはそのまま

前作は犬となった死神が病院という死を待ち望む人々について焦点があたっていましたが、今度はどちらかというと大きな事件に関わっていく記憶喪失の少女が主眼となった物語であり、ミステリー要素が増しています。

「死」を覚悟していた人たちへの救済ではなく、突然に「死」を迎えてしまった原因を探るのが中心とも言えます。

前作は侍のような性格を持ちながら、犬になった死神でしたが、今作は紳士のような振る舞いや考えを持つ黒猫であり、少女を助手とするならば、完全に探偵の形になります。

少女や患者を救い、守るために奮闘するという目的がはっきりとしていた前作の主人公とくらべ、探求、調査により何をすべきかを見つけていくことになります。目的がはっきりしていた前作と違い、今回は誰が味方で誰が敵か、そして敵の目的は何なのかすらはっきりしません。

かといって前作のような優しさはないかというとそんなことはありません。記憶をなくしつつ人の可能性を信じ続ける少女、真相を知ることで救われる人々、そして若干アホ犬と化した前作主人公など、感動や優しさを生み出す存在がたくさん出てきます。

読み終わった後、あなたの心は確実に、暖かくなるでしょう。

繋がりにくい物語

今回も当然、一人ひとり確実に救っていくのですが、前作ほど物語全体の俯瞰はしにくいです。舞台がはっきりしていた前作と違い、様々なもとを少女と歩き回り、また救おうとする人間も様々です。

死神の力も前作以上に活用するものの、なかなか真相にたどり着くことはできず、読んでいるこちらとしても展開が読めません。そして、何よりこの死神の力や、魂という存在も謎に絡んでくることになり、当シリーズの設定ならではの謎解きも楽しむことが出来ます。

章のタイトルも、呪いのタイトル、魂のペルソナといった形で、言葉の中に秘密をうまく隠されており、最初から真相を見抜くのは決して楽ではないでしょう。(私の本音を言うと前作は割と答えを予想しやすかったのですが、今作は全然わかりませんでした)

その分、予想が当たっても外れても全てがわかったときの充実感は前作以上であり、謎が好きな方は前作以上に楽しめることでしょう。もちろん謎を解こうとせず、黒猫の奮闘を見るのもいいです。

侍のようにどこか真っ直ぐな性格を持ちながらも、人については傲慢な態度だった態度だった前作の主人公にくらべ、今作はどこか人について諦観と曲がった主観を持っていた黒猫がちょっとずつ、時にズレながらも人、そしてある意味先輩である犬となった死神を見て、自分たちの存在を改めて理解していくところも見どころの一つです。

総評

ミステリー要素が増え、舞台が広くなりましたが、前作の雰囲気が好きだった方には十分オススメできる作品です。

推理や謎解きでは、ノックスの十戒というルールがあり、超常的な力を使ってはいけないというものもあるみたいですが、なかなか便利な死神の力を持ってしてもなんでも簡単に解決とはいかないようです。

しかし、だからこそ、人の可能性、絆、愛、そして闇を知ることで頭脳は聡明で不思議な力を持ちながらも人というものを理解していない死神とともに、人を見つめ直す機会にもなるでしょう。

そして作中、度々出てくる逃れることができない「死」という概念ですが、前作はどこか「死」について待ち望んでいた人々が多かったものの今作は突然死んでしまった人たちも多く出てきます。より「死」の残酷さが強調されるとともに、考えさせられる描写も多く出てきます。

「謎」についても「死」についても考えつつ、温かみのある感動もある、2つの側面を楽しめる本です。

前作を読み、世界観が気に入った方、今度もやはり楽しめると思うので黒猫と一緒に、謎を探ってみましょう!

要点へのヒント

章を読み終えるたびにタイトルを読み返すと意味がわかっていい気分に慣れます。(これヒントじゃなくね?というのはごめんなさい。今回はどうしても思いつきませんでした)

余談

残念ながらこのシリーズは現在はここまでみたいです。もしかしたら今作にちょくちょく出てきた粗暴な死神がまた姿を変えられて地上に降りてくるかもしれません。その時を持ちましょう(個人的にはハムスターあたりに変えられていると面白いと思っています)

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