漫画、カイジの本関係でもう1冊紹介いたしますね。
前の1冊はこちら
厳密に言うと原作のカイジの本というよりは、スピンオフ作品である、「中間管理職トネガワ」のさらなる派生本、といったところです。
前の記事で悪役ほど正論を言いたがると言いましたが、今回は徹底的に正論……というより超合理的に物事を見ており、積極的に部下たちの悩みを聞いて解決しているトネガワ先生に悩める子羊たち(愚か者)の相談を聞いてもらおうという本になっています。
なお、本人は部下の悩みを聞くのは報連相の一貫であり、「なんで見ず知らずの他人の話を聞かなきゃいけないんだ!(意訳)」とご立腹のようですが、渋々受けてくださった……とのことです。
基本的に金銭面の悩みが多めですが、人間関係、仕事、男女関係、子育てなど、様々な問題に悪魔のように残酷かつ厳しく答えていきます(こちらの方子供いませんけどね)
愚かな人と無慈悲な質問
正直、質問者の方々はなかなかに壮絶な、あるいはなかなかツッコミどころ満載の人生を送っておられます。そして彼らに決して容赦はしません。
質問は見開き分……つまり2ページ分埋め尽くされているのですが、ページをめくったら大量の罵詈雑言とお説教が待っておられます。
「中間管理職トネガワ」の漫画のシーンも少しずつ登場しながら、耳の痛いお言葉を頂いていきます。
しかし、合理主義であるためか、少なくとも「いじめはいじめられる方が悪い」とか「黙って耐えていればいい」といった根性論、精神論はなく、「復讐なんて誰のためにもならない」とか「とりあえず楽しめればいい」といったとりあえずポジティブ論みたいなものは一切出てきません。
そういったものに飽き飽きしている方たちにははっきりと断言し、「お前はだめだ」と言われてみるのも、新しいものを次々発見できると思います。
人格もなかなか否定されますが「〜〜だからお前はこう考える。だか〜〜〜と考えているのが駄目だ」と言われるので少なくとも理不尽な人格否定ではないです。
質問の裏を読む
本編でもやっていることですが、トネガワ先生はとにかく相手の表情、言葉、しぐさから相手の狙いを読み取り、そして対抗策を打ち立てていることで勝利を選んできました。
そして、相談室でも同じように「〜〜したいのですが?」あるいは「自分はこう思っていますがどうでしょう?」という質問に対して「本当は〜〜なんだろう?」とか「お前が本当に思っているのはこうだろう?」という形で返します。
もちろん、相手の事情などわかりませんし、ましてや相手そのものではないのですが、このあたりは正解も不正解もありませんが、非常に大切な教訓であると言えるでしょう。
カウンセラーで、大事なのは相手の質問に答えることではなく、「相手が言ってほしい答えを出す」ことと言われているのですが、この先生の場合は完全に逆で、「相手が本当は見たくないもの」、しかも無自覚で目をそらしているものから強引に目を向けさせ、そしてさらに本当はやりたくない方法を選ばせるという悪役でしかできない解決方法を推奨させています。
荒療治には間違いありませんが、問題解決手段としては有効な場面も多く、質問の回答そのものよりもこういうやり方もある、ということを学べる本と言えるでしょう。
総評
上でも述べた、本当に望んでいること、あるいは目をそらしている目的は、悪いことだけではなく、経済でも使われています。
ドリル理論というものを皆様はご存知でしょうか?言い方は色々ありますが、ざっくりいうとこんな漢字です。
「人はドリルを求めているのではなく、穴を求めている」
私の解釈としては、ドリルがどれくらいの速さで動くか、とかどれくらいすごい技術が使われているのか、とかそういうことはどうでもいいのです。
このドリルを使ったらどれくらいスムーズに穴を開けられるのか、あるいはどれくらい楽に、どれくらい経済的に有利か、どれくらい静かにできるのか、といった要は使用者にどれくらいの利益が出るのか、ということが本来は大事なこと、ということですね。
このことをベネフィットというらしいです。(直訳で利益という意味、そのままですね)
トネガワ先生はたしかに悪魔的で容赦がないですが、当本を読む限り、ベネフィットを非常に理解しており、相談者が本当に望んでいることを見抜き、解決策を見出します。
成功者として、あるべき力を持っているというのは原作、及び、スピンオフの漫画を読むと納得できるところです。
しかし、忘れてはいけません。
あくまでこの本のネタバレではないので、言いますが、トネガワ先生の生き様の終着点は決して幸福なものではありませんでした。人生は本人が満足できる生き方ができたかどうかが問題とよく言いますが、最後の表情を見たところ、怪しいものです。(一応、立ち直りはしたみたいですが、傷は浅くないはずです)
どこかの世紀末の人みたいに、
「一変の悔い無し!!」
と叫んだわけでもありません。
何より、最期は合理的主義の弱点をつかれた形で退場となっています。
本人の実力不足だったのか、それとも、そもそも方向性が間違っていたのか、というのも賛否両論もあります。しかし、結局人生は生きたいように生きる方法を探すのが一番なので正解不正解を考えるのではなく、そのための手段を探したほうがいいかもしれません。
で、結局どうすればよいのか、と言われますと、大切なのはずばり、距離感ですね。
自分の人生を本当は何を望んでいるのか。
自分はそのためにどういう道を生きたいのか。
トネガワ先生のように感情を度外視した悪魔のような合理性、そして自分のしたいという欲望のバランスをとることです。
しかし、常に真ん中の道を通るだけではなく、端と端を1度行った後で、自分のポジションを理解するべきだと思います。
そのために一度、悪魔のような合理性の数々を体験しておくことは決して無駄になりません。
要点へのヒント
こういう相談書的な本は質問を見てからその答えを予想すると、クイズ感覚で楽しむことが出来ます。特に、この本は容赦がない上に、なかなかひどい答えが帰ってくるので予想のしがいがあるでしょう。
質問者のベネフィットを探ることもお忘れなく。
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