優しく、気高く、ちょっと傲慢な犬……ではなく、死神の物語です。優しい死神の飼い方 知念 実希人 p441(あとがきなし)

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その他

オススメできる方

  • スタンダードなファンタジーが読みたい方
  • 死について考えたい方
  • 生きるということを改めて考えたい方

ネガティブの根源には何かと死がつきものです。

苦しいときや辛いときに望むと望まざると死は何かとつきまとってきます。

大雑把に分ければ「死ぬのが怖い」あるいは「辛すぎて死にたい」という2つの種類がありますね。

苦痛を避けるための方法も大雑把に2つです。

1つはなにか楽しいこと、熱中できることに没頭して死や苦痛の概念から離れる。

もう1つは死を肯定的に受け止め、いつか来るものは来ると備えるように生きる。

前者はポジティブ、後者はネガティブと取られることもありますが、私はどちらも間違いではないと信じています。

死を忘れないようにすることが生きることが良くも悪くも生を実感する方法という逆説的なやり方も生まれるからですね。

さて、今回はそんな死にまつわる存在、死神のお話です。

といって怖い存在ではありません。

死神のイラスト

こういうのではなく、

ゴールデンレトリバーのイラスト

こういう感じです。(どっちも可愛いとか言っちゃ駄目ですよ

ぜひ、私もお世話になってみたいものです。

あらすじ

人の死を見守り、魂を正しく主様のもとへ導く超常的な存在である存在、人からは死神と呼ばれています。とはいえ、人の命を奪うことはなく、ましてや寿命を伸ばしたり縮めたりということもせず、あくまでただ魂を説得して正しく運ぶお仕事です。そんな死神の一人である彼は成績が悪い原因を上司に相談したばかりに犬の姿となって人の未練を解消する仕事を任されてしまいました。

人なんてただの荷物、低俗と考えているものの、主の命令に背くことなど考えられない彼は犬の体を与えられ、地上に現れるものの、さっそく寒さで死を覚悟します。

窮地の彼を救ったのは近くの病院で看護師をしている菜穂という少女でした。「病院ならば未練を抱えた人間も多いだろう」と考えた彼は病院に住み着くことに決めます。レオと名付けられ、さっそく未練を抱えた患者たちの臭い、「腐臭」というものを嗅ぎつけ死神の力を振るい、救っていくのです。

しかし、死神である彼ですらわかりませんでした。裏にある大きな存在を。

欠けた物語

未練を抱えた病人はどこか強い後悔を抱えていますが、わからない部分の過去をどこまでもネガティブにしてしまうからです。みなさんも心当たりがあるのではないでしょうか?

自分を尊き存在と考える死神は、聡明な頭脳と、患者の未練を見る死神としての力を使い、未練を見つけていき、そして、夢の中で「犬」として呼びかけることで欠けていたネガティブ部分を合理的なものに変えていきます。

他人から見れば「そんなわけないだろ」と言いたくなるようなネガティブ感がありますが、やはり後悔に近い未練を少しでも考えたくないように、自分が考えられる最低基準で人は考えてしまうみたいです。

まあはっきり認めてしまうとネガティブの負の側面があるといえるでしょう。更にいえば他人から見ればどこか正しくないと思う話でも、どうして違うのかを当人に証明するのはなかなか難しいものです。

優しい死神は、彼らのネガティブを叱り、どこか恐れている彼らを激励し、欠けた物語のネガティブ部分をうまく埋め合わせます。そして彼らの未練を断ち切るために物語を再生させていくのです。

未練によって引きづられていた物語は、一つ一つが輝かしい物語と変わっていきます。

正直、ちょっと涙ぐんでしまいました。

しかし、完成された物語が新たに欠けた物語を生み出していき、物語そのものが、もう一つの物語と繋がっていくのです。

死神の変化

この物語のタイトルですが、「優しい死神」という言葉は伊達ではありません。彼は人々を見下している分もあってか厳しくもありますが、対価を得ることなく苦しむ人々を救っていきます。まあ当人は主様のための義務といっていますが、救われる方としてはいくら感謝をしてもし足りないぐらいでしょう。

しかし、義務としての仕事は、犬という体を持ち、人の感情や人生、そして愛などに触れていき、少しずつ変わっていきます。人のじれったさや不合理、感情がもたらす負の側面に苛立ちを覚えつつも、ちょっとずつ、本当に少しずつですが、人の感情について理解を示していくのです。

そして彼は本来なら考えなかった行動を起こしていくことになります。

それは「死神」でもあり、「死神」でもない、ほんとうの意味で、「彼」が「彼」となる瞬間を迎えるのです。

優しさとは一体なんでしょう。誰かのために尽くすことなら最初から彼は義務のもとで尽くしていました。義務だとしても尽くすことが優しさと言えるなら、この死神はずっと優しいままのはずです。

つまり「優しさ」も変わっていくのです。

総評

死をテーマとしている作品ですが、優しく、厳しく、せつなく、そして伏線が多く張り巡らせており、総合的に様々なジャンルを楽しめる本です。

誰もが訪れる死について、考えなくてはいけなくなったしまったとき、ふとこの本を思い出すと少しでも心が楽になります。

そしてもう一つの教訓である正しさは時にどうでもよく、人を納得させることが大事の事が多いというのを当人も含めて考えさせられる部分もあります。

そして死神の変化に合わせて、おそらく読んでいるあなたも違和感を覚えていくと思います。

違和感が晴れた時に、非常に心地よい気分にひたれ、もしかしたら泣いてしまうかもしれません(←ちょっと泣いた人)

この気分は最初から最後までこの優しい死神と付き合っていないと味わえないと思うので、是非読んでみてください。

本としてはややボリュームがありますが、短編として読んでもなかなか切りの良いところで終わることができ、伏線もインパクトが強いのでなかなか忘れないと思います。

要点へのヒント

多分、本の題名は厳密には正しくないと思います。

本当のタイトルは……まさにこれが要点です。

ぜひ、自分なりの答えを見つけてください。

ヒントとしては個人的に2つある部分を直せば正しくなると思います。

余談

この本は続編があります。

ちょっとタイトルから続編とわかりにくいかもしれませんが、読めば一目瞭然。この本でも出てきたとある存在が主人公です。

こちらも近い内に紹介したいと思います。

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