- 人の優しさと外道さを両方見たい方
- 短編小説も長編小説好きな方
- ブラック企業との向き合い方を知りたい方
ブラック企業。
言うまでもなく、ネガティブ感を生み出すには満載の環境と言えるでしょう。とはいえ、当ブログはブラック企業へ勤めることを推進しません。というか早急に逃げることをオススメします。
私はどちらかというと皆さんにネガティブさも受け入れて楽になってほしいという考えなので、無理をする、頑張る、苦しみに耐えるというネガティブ感は程々にしていただきたいです。(もちろんそこから生まれる力は否定しませんが、それはあくまであなたのために使われる力です)
今回の物語は最初からネガティブ感満載です。人の暮らしている環境と思えぬ場所と、人の所業と思えぬ生命体、そして一人のとある人間とその周りの人達で進行していきます。
逃げ切れなかった一人の人、彼は多くの人を苦しみから救い、そして救いを持って苦しませます。
それぞれの視点
この物語はただ一人の例外を除いて、様々な登場人物が出てきて、それぞれの視点で進行していきます。そして全ての人間が「逃げ切れなかった男」へ何かしら関わり、そして彼らの人生を大きく変えていくことになります。(どうしようもない外道もちらほら出ますが彼らの視点はないのでご安心を)
特徴の一つとして彼らは全て優しい人です。優しいというのは人の痛みがわかる人であり、もっとわかりやすく言うなら人の痛みを自分の痛みと同じように感じることができる人です。
苦しみが優しい人へ伝わると余計苦しくなりますが、一方で前へ進む大きな力になることもあります。
ちなみに、ブラック企業の話を冒頭で出しましたが、全てがブラック企業関係者ではなく、様々な人たちの視点から見ることができ、物語がより大きく広がっていきます。
一方で、やはり一つに繋がっていく部分もあり、単純なようで複雑な話です。
短編であり、長編
この物語の面白いところはそれぞれが繋がっていながらも一つ一つ別々に読んでも決して不自然ではないところです。はっきり言って一番最後の章を読んだ後に1番最初から読んでも普通に読むことができると言ってもいいでしょう。
それだけ一つ一つの物語は完結しており、しかし、全ての物語がちょっとずつ繋がっていることを感じることができます。
絶望と希望
タイトルからの絶望感は決して本編に関係ないことではありません。どこまでも絶望感はつきまとい、「逃げ切れなかった人」以外にも襲いかかります。しかし、彼らは何かしらの希望を誰かから与えられ、絶望と戦う力を身につけていくのです。
希望は巡り巡り、一つの物語から一つの物語へ繋がっていき、そして一つになったかと思ったらまたバラバラになり、そしてまた重なり合っていきます。
しかし、希望は救いでもあり、そして救いは苦しみでもあり、苦しみは絶望でもあります。
誰かが苦しんでいたのに自分は苦しまなくて良いのか。
自分も同じように苦しむべきではないのか。
あるいは、その誰かを助けられるまで自分もまた、絶望し続けるべきではないのか。
「逃げられなかった人間」のために自分は別の形で逃げないべきではなかったのか。
救われたためにそういった新たな葛藤にさいなまれることもあり、優しく、人の痛みがわかる人ほど強く絶望を感じてしまい、そういったものにどう向き合うのかも見どころの一つです。
神話の中にある人々に災厄をふりまいたと言われているパンドラの箱。災厄を詰めたものであり、一番奥にある、つまり一番強い災厄こそが希望なんて話もありますが、ポジティブとネガティブは表裏一体のところもやはりあるのでしょうね。
総評
中編でありながら短編小説としても読める読みやすさ、そして、現代社会の闇と人の希望を描いた物語であり、ネガティブさとポジティブさを両方併せ持った小説です。
特に今の状況が辛い人は自分自身を客観的に見るためにもオススメできます。
ひとまず思ったことを一つ。
やはり、全ての人間が善人である、あるいは日本人は全員善人が多いという奇妙なポジティブシンキングは早急に捨て去っていただくことをオススメします。そういった考えが逃げ道をなくし、弱者を作り、大切な命を失わせていくのです。
どうもオリンピックや有名外国人の来日などがあると「日本人の善良さは素晴らしい」という話に持って行きたがる傾向がありますが、そういう時はちゃんと現実、あるいはこういう小説を見て思い返してください。
割とどうしようもなく適当な世の中の中で、そしてどうしようもない外道地味た人間がいる中で、優しく、人の痛みがわかる人の存在はもっと重要視するべきです。
下手にポジティブな気持ちを持つと、苦しみの中で善がまぎれ薄まり、結果、善の革をかぶった苦しみしか残りません。ネガティブをちゃんと意識するからこそ、その中でのポジティブを見つけ、あるいはネガティブと向き合うことを考えることができるのです。
この本の中で絶望に等しいネガティブを抱えた人たちはちゃんと奇妙なポジティブに騙されず、ネガティブに向き合い、あらがい、あるいはそのままもがき続け、そしてそれぞれの答えを出していきました。
常にネガティブになれというつもりはありません。
常にポジティブにならないでください。なろうとしないでください。
この本の中で私は改めて、それを主張したいです。
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