『なぜ銅の剣までしか売らないんですか?』(著:エフ)を紹介します。タイトルから想像がつかないですが、読めば、この世の全てについて考えたくなる本です。

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一言で

”そういうもの”にはそれなりの理由があるのです。

最初に

皆さんはテレビゲーム、特にRPGをやったことがあるでしょうか?

有名なものだと、ドラゴンクエスト、ファイナルファンタジー、ポケットモンスター、その他様々なものがありますね。

この手のゲームのお約束としてこんなものがあります。

最初は敵も弱く、主人公たちが買える武器も弱いですが、主人公たちが強くなっていくに連れて段々と強い武器が買えるようになり、敵も強くなっていく。

(最近はオープンワールド形式のゲームも増えてきたので必ずしもこのお約束が当てはまるとは限らないですが)

もちろん、この仕組みが何故あるかと言われれば、「ゲームを面白くするため」「楽しんでもらうため」「達成感を味わってもらうため」といった理由があることは明白です。

ただし、それはあくまで”外”にいる我々の事情、更に言うのならば”外から見た場合”の話です。

もし、実際にその村で暮らす人間がそんなお約束に疑問を持つとどうなるでしょう?更に言うのならばそのお約束のせいで、大切な存在が危険にさらされるとしたら?

そんなお約束を壊したいと思うのは当然のことではないでしょうか?

今回紹介する本はそんな物語です。

あらすじ

とある武器商人のもとで商売人として務めるマルはある日、自分の弟であるバツが勇者として選ばれたことを知ります。

勇者とは各世界の恐怖の象徴である魔王を倒す存在であり、非常に名誉ある立場なのですが、同時に危険な立場であり、戻ってきたものはいないとまで言われています。

どこか現実主義で悲観的な部分を持つマルは大切な弟が危険な旅に出かけるのを見て、非常にもどかしい気持ちを感じていました。

勇者という、危険な立場にいる人間にはもちろん強い装備をもたせ、万全の準備を進めるべきなのに、自分の店にある一番強い武器は初心者が持つような銅の剣です。

お金がないわけでもなく、輸送手段に問題があるわけでもないのも関わらずです。

なぜこの街の店はもっと強い武器を仕入れないのか?

なぜ国はもっと力強く勇者を支援しようとしないのか?

そんな疑問を持ち続けたマルは港町でチューリップが高く売れているという噂を聞き、金儲けのために出かけます。そしてその行動が、この世界の不都合で、残酷で、そして大きな謎に向かうきっかけとなるのです。

おすすめポイント

ファンタジーの皮を被ったビジネス論

”銅の剣”という言葉からファンタジー要素が強い作品と思った方もいるのではないでしょうか?確かに、銅の剣といった武器や、キメーラの翼といった不思議なアイテムやスライムといった魔物の存在もあります。(もうお気づきかもしれませんが完全にドラクエがモデルですね)

が、逆に言えばそれぐらいです。

ファンタジーの王道にあるような

  • 旅の途中で強大な化け物と戦うとか
  • 悪者に囚われている女の子を助けるとか
  • 不思議な魔法で宝物を探すとか

一切ありません。

じゃあ何があるのかと言いますと

  • バブルを利用してのお金儲け
  • 善意的な活動と経済の現実性
  • 勤勉な悪党が作り出す恐ろしい仕組み

といった、「本を間違えたかな?」と言いたくなる要素がてんこ盛りです。しかし、一見このミスマッチに見える組み合わせが非常に面白い効果を生み出し、夢見がちなファンタジーの世界でありながら、ファンタジーだからこそ出せる世知辛くてどこまでも現実主義的な側面がある世界を生み出すことに成功し、そしてそんな世界を旅するマルの行動もまた先が読めない面白さを作り出しています。

言ってみれば、ビジネス冒険活劇といったところでしょうか?ファンタジーの雰囲気を味わいつつ、現実のビジネスを表現した見事な本でした。

サンカクの強烈な現実主義

主人公であるマルもなかなか現実主義者ですが、途中で登場するサンカクという人物がなかなか痛烈です。(ちなみにシカク、バツ、そしてオウギという登場人物もいます。完全にプレ○テのコントローラーですね)

この人物はとある大きな企みの首謀者であり、そして普段は高利貸しをしては、お金を返せない相手に対して痛烈な対応をする、いわゆる悪党と呼ぶにふさわしい人物です。

一方で、公平で勤勉な性質もあり、強い理解力もあります。

そんな彼のセリフをちょっとだけ紹介します。

「道徳や人格の価値ぃ?そもそも俺は生きていく上でそんなものに重きをおいたことがない!もし、そんなものが人間にとって大事で価値があって正しいのだとしたら今のこの状況はなんだ!」

「どうせ抗いようのない社会の流れとやらに不平不満を述べながら無意味な自己肯定ばかりしてきたんだろう!いいか、お前の都合の良い社会なんて百億年経ってもこない!」

「お前が社会に文句を垂れている間、俺は学問に取り組んでいた!お前が他者を空論で批判する間、俺は商売を実践した!お前が酒場で飲んだくれている間、俺は何度も苦渋を舐めて飲み干した!その結果として、現在と俺のお前状況がある!」

ほんの一部ですが、なかなか強烈ではないでしょうか?

誤解してほしくないのは、金持ち=悪党と言いたいわけではありません。(もし、そんな事を考えてしまう人はこちらがオススメ)

ただ、ポジティブなものは決して怠ける理由にはなれない、ということであり、悪というのはなかなか勤勉な側面があることも否定できない部分があります(馬鹿な悪党はすぐ淘汰されますからね)

マルともいずれ戦う(もちろん商売戦略的な意味で)ことになりますが、その時の勝負は必見です。善悪では測れない見どころのある戦いを期待していてください。

”そういうもの”の正体

さて、少しだけネタバレをしますと、最終的にマルはタイトルの答えにたどり着きます。それはあまりにも「不都合な真実」であり、さまざまな人間の欲望や、企み、そして賢いマルでさえ、想像もつかないものでした。

もちろん、ファンタジー世界のものなので、現実で起こるわけがない……と言えたらいいのですが、実はそうでもありませんでした。

誰もが、「なぜ?そうなのか?」「こうすればいいんじゃないか?」というものには、それなりの理由があり、それは私利私欲だったり、あるいは誰かを助けるためだったり、大きく言えば世界のためである可能性もあります。

現実での政治、宗教、歴史、慣習、読者の方々もこれらのものについて似たような意見を抱いたことはないでしょうか?簡単な改善方法があるように見えても、実際に調べてみると現状を維持するのはなかなか深い理由があるのです。

そしてこの”理由”を強く、深く知ることができた時、とある権利が生まれる可能性があります。その権利とはなにか?選択肢は2つです。1つは先程のサンカクさんが関わっており、そしてもう一つはマルが関わってきます。

その権利を獲得するための条件は経験と勤勉です。分かっていても、なかなか気がすすまないのは事実、しかし、この2つの意味は世間で知られているより、もっと強い可能性があるのです。

最後まで読み、そして、マルがたどり着いた答えを知れば、きっとあなたにもこの権利を得るチャンスがあると思えるでしょう。

それは商売の成功としてだけではなく、もっと大きな物事の意味となるのです。

注意点

もう一度言いますが、なんというか、ゲーム感覚や、ライトノベル感覚を期待している人はちょっとご期待に添えないかもしれません。

逆にビジネス小説が好きでも、あまりにもゲームの知識がないと読みづらい部分があると思います。

どちらも少しでも嗜んでいるのであれば、ぜひオススメです。

最後に

非常に興味深いタイトルに惹かれて読みましたが、想像以上に奥深い物語でした。

疑うというのはネガティブな印象を抱きがちですが、この本を最後まで読めば、なんとなく流してしまう”何か”をついつい疑ってしまいたくなります。

ただ、マルがそういう何気ないものを気にし始めたのも、弟のバツが危険な旅をする勇者として選ばれたからという強い動機があったのも否定できませんし、私達も普段は気にしている余裕もないかもしれません。

ただ、もしあなたが「どうにもならない」あるいは「どうにかしたい」ことを見つけたら、もしかしたら普段気にしなかったことにヒントがあるかもしれません。

このあまりにも簡素な質問が、あなたの日常の気づきを助ける様々なものに変わっていくことでしょう。

「なぜ、銅の剣までしか売らないのか?」

「なぜ、○○は○○しないのか?」

「もっと、○○をしたほうがよいのではないのか?」

ほら、このように。

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