※ちょっと今回の話は刺激が強いかもしれません。読んでいて気分が悪くなったら途中でやめることをおすすめします。決して自殺を推奨する話ではありません。
おすすめできる方
- サスペンスものが好きだけど生々しすぎるのは嫌
- 悩みを抱えている方
- 自殺を考えたことがある方
自殺。
あなたはこのたった2文字の恐ろしい言葉に何を感じますか?
失うものが何もない。もう怖いものなんてない。死ぬことのみが救い。生きていることがただ辛い。
私が思う限りこのようなイメージが強いでしょう。
しかし、自殺を決意することすら、人は多大な力を必要とします。逆にそれが自殺を抑止することにもなっていますが、この力を弱める方法、それはいくつかあります。
例えば、誰かに任せること。(もちろん、全部任せては殺人や自殺関与という罪になりますが)
あるいは、集団で実行すること。
そう、集団自殺というものができるのはこのあたりが理由だと思われます。
今回はこの集団自殺がテーマのミステリー小説です。
十二人の死にたい子どもたち 著 沖方丁(※お詫び 本当は冫なのですが変換が出ませんでした)
忘れないでください。死にたくて死ぬ人間はいません。死ななければいけなかったから死ぬのです。
たとえ、他の人には他の方法があったとしても。
あらすじ
とある廃病院に少年少女が集まります。様々な理由があるとはいえ、最終的な彼らの目的は唯一つ。自ら死を選び、この世からいなくなることです。
事前に知らされたルールと自殺する方法だけを知り、あとは実行するだけ、のはずでした。
本来集められたのは12人のはず。しかし、彼らが集まったときにはすでに一人、ベッドに横たわっていた。
何があってもこれから死ぬ彼らには関係ないはずです。
はずだったのです。
たった一人の何も言わない、何も動かない人間が本来役に立つはずのなかったルールを動かしました。
そしてズレが起こります。
ズレを治そうとするたびに新しく何かがズレていく。
死すら恐怖ではない彼らを邪魔するものは一体……?
普通とは違う真相を探すサスペンス
自らの死を目的にした人達なので自分たちが殺されないため、ということは動機にはならず、この出来事が自分たちにどのような影響を与えるのか、というサスペンスでは風変わりな展開で物語が進んでいきます。
私がテーマとしたズレという表現は適切ではないように思えますが、間違いなく、彼らが動く理由は本来の目的を果たせなくなった原因であったズレを治すためであり、そしてこのズレを直す途中で様々な真実に向かっていきます。
犯人が何のためにするのかどころか、何をしたいのかすらわからないので、サスペンスの難易度としてはかなり高く、好きな人には読み応えがあると思います。そもそも彼らが容疑者なのか、それとも外に容疑者がいるのか、もしいるとするのならば、どういった目的なのか。考え始めるとなかなか進めなくなります。
血や残酷な描写は特にないので、自殺というテーマにひどく抵抗がないならば、サスペンスとしてもおすすめできます。
最初のページには地図があるので、考察の役にもたちますね。
サスペンスを無視して少年少女の悩みを見守る読み方も可能
とはいえ、サスペンスを考えるのは苦手で、ストーリー部分を読み勧めたいという方にもおすすめです。
十二人それぞれ事情があり、ちょっとずつ明らかになっていく答えはサスペンスとはまた違った意味合いで驚きを読者に与えるでしょう。彼ら自身が納得したり、しなかったり、思わぬ出来事に発展したり、あるいは自体を停滞させたりします。
そしてお互いのことを何も知らずに死ぬはずだったのに、徐々に理解を深めていったり、逆にわからなくなったりと起こるはずのなかった死の間際の人間関係は集団自殺というテーマならではのものです。
また、登場人物が動くことで、変化する影響の大きさは少年少女の物語の醍醐味といえるでしょう。自殺という死の直前のテーマだからこそ、より一層感情の動きが強く感じられます。
ズレが生じても全く芯が動かない人、あちらこちらに戸惑う人、全く動こうとしない人、目的から逸れる人など、多彩な動きを見せてくれます。
自分の悩みか、他人の悩みなどを考え、そして何を思うか。その廻り合わせは登場人物が多い利点の一つといえるでしょう。
とはいえ、十二人もいるのでちょっと混乱するかもしれませんが、自殺というテーマに恐怖を感じつつも、誰が一体、ズレを起こすのかをハラハラしつつも楽しんでいる自分がいると思います。
劣等感ポイント
正直に言いますと、なんで自殺なんて考えているんだろうと思うぐらいの少年少女がいます。理由を聞いたら納得するようなしないようなといった複雑な感情がわきました。
私と比べたとしても子供にしては、力が強そうだったり、頭が洒落にならないぐらいよかったり(サスペンスなのでこういう人間が最低一人はいるのですが)、自分に非常に強い自信があったり、他人の羨むものを持っていたり。
自殺というテーマを忘れてついつい私の異常なほどの劣等感が刺激されました。
言ってみれば、自殺の目的は何かで相殺されることがない、ということなのかもしれません。立派な人だったり立場的に恵まれている人だったり、とても強く見える人だったりしてもです。
劣等感に関しては私が勝手に感じているだけですが、考えさせられますね。
総評
少し強引なところはありましたが、改めて自殺という重いテーマについても考えられる非常に刺激的なお話でした。
彼らが結局どうなったのかはネタバレなのでもちろん言いませんが、一つ感じたことがあります。
自殺はいいとか悪いとかではなく、とにかく止めなければいけない。
それは正解であり、間違いでもあります。
とにかく止められるなら自殺なんて起きません。そもそも賢い彼らのように止められるとわかっているから止めない方法を見つける場合もあるのです。
自殺は世間からとにかく忌み嫌われますが、究極のネガティブ思考の一つでもあります。死ぬほど苦しいときこそ、他人の痛みがわかりやすくなる、というのは否定できません。
十二人の様々な彼らの動きを見て、あなたが死にたいと思うときはどういう時で、あるいはどのようにそれを止められるか。人の死にたい理由を見て、自分の死にたい理由を見つめ治せるか。
正直仮想で考えるにしても重たすぎて辛いことですが、世の中の自殺を本当に止める方法の一つかもしれません。これも私の提唱するネガティブの力の一つと言えるでしょう。
もちろん、自分には全く関係ないと切り捨てるのもそれはそれで答えの一つです。
12人の彼らを見て、あなたが何を思うのか、あなたはどんなズレを気にし始めるのか。
気軽に読める本とは言えませんが、思う所があるのならば、読んでみてください。
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