『倒産続きの彼女』 著 新川帆立:「倒産」がテーマ!Nテーマは【苦労】 殺すのは人ではなく会社!? 会社の危機や経理の問題、落とし穴、そして「人生の生き方について学べるひと味違うミステリーです!

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倒産続きの彼女 その他

こんな方にオススメ!

  • 王道とはひと味違うミステリーが読みたい!
  • 人生について悩みがち……
  • ついつい苦労しているのは自分だけと考えてしまう……

最初に

会社のキャラクター(死亡)

「倒産」

全くの笑い事ではなく、人によっては下手なホラーより怖い言葉です。もっと怖いのは決して他人事とは言い切れないということでしょうか。

生きるために必要な「お金」、誇らしく生きるための「社会的地位」そして自分が自分でいるための「アイデンティティ」人生において重要視されがちなものをすべて失うというものですから、ネガティブなのは当然でしょう。

基本的にどうしたら良いかと聞かれたら、ポジティブ的な対策としては、「会社が潰れないように自分が頑張る」ネガティブ的な印象としては「会社が潰れても良いように逃げ道を用意しておく」ということでしょうか?

「現実的なのは?」と聞かれたら後者ですが、理想的に語るなら前者といったところでしょう。まあなんにせよ、あまり考えたくない問題ではありますね。

さてさて、今回のテーマですが、ちょっと新し目の本です。そして一度でも厳しい倒産が何度でも訪れる事件を調査する物語です。

場合によっては自虐的なギャグととられかねないようなタイトルですが、あまりお笑い要素と呼べるようなものは少なく、本格ミステリー、もしくは本格サスペンスと言って間違いないでしょう。

とはいえ、よくある殺された人間についての謎を追う……というものではなく、倒産する会社を渡り歩く、言ってみれば”殺法人”という本当かどうかもわからない事件を調べる若い弁護士の物語です。とはいえ、それだけではなく、日常や将来への自分の悩み、そして人生の行き方について考え抜き、一つの答えを出す人生論の物語もであります。

どちらも簡単には解けない問題ですが、彼女なりの答えをしっかり出してくれました。

あらすじ

(人物名は重要人物名はで紹介します)

法律事務所に勤める美馬玉子は同棲している祖母のこと、仕事のこと、結婚のこと、これからの将来のこと、そしてそもそも努力することの意味について考えながらも弁護士としてハードに働いていました。

そんなある日、いくつかの会社を倒産させているという噂をたてられている近藤まりあについて色々な意味で対象的な一年上の先輩であり、やや苦手意識を持っている剣持麗子と共に調査をすることになります。

「たった一人で企業を倒産させることなどできるのか?」といった疑問を持ちつつ、二人の若干ぎくしゃくしたコンビはまりあや倒産しかけている会社、そして関係者達を調べていくことになります。

そして玉子は事件の真相を追っていく中で裏に潜むとんでもない真実を、そして周りの人間の気付こうともしなかった部分に触れていくことになるのです。

この本のおすすめポイント!!

殺人ならぬ殺法人という斬新なテーマ

間違いなくミステリー目線で語るなら面白さに大きな比重を締めている部分です。

「殺人犯を追え!」ではなく、「企業を倒産させているかもしれない彼女の謎を突き止めろ!」ですからね。パターンで考えられず、先が見えない展開を楽しめると思います。

怪しげな登場人物も多く登場しますが、考える上で厄介なのはミステリーでよくある、アリバイや証拠というものが成り立たず、全くの新しい土台を自分で考えなければいけないという点です。

「たった一人で会社を倒産させることできるのか?」「そもそもどうして会社を倒産させる必要があるのか?」といった論理や動機を探っていくのはミステリーっぽさを残していると言えます。

物語の面白さを損なわない程度に会社の仕組みや倒産寸前の弁護士や社長の取り組みなどについて知ることもできるので、ちょっとした社会勉強感覚で読んでも面白いです。

とはいえ、上記にも述べましたが、決してお気楽な物語ではありません。サスペンスらしいスリルと恐怖を兼ね備えており、斬新なテーマに惹かれた読者をぐぐっと惹きつけるでしょう。

「自分の人生を生きる」という意味が学べる

こちらも大きなテーマの一つだと思います。いわゆる人生論ですね。

弁護士という十分誇りに思える職業につき、一部では、というより自称他称問わず「ぶりっ子」と呼ばれながらも絶えず努力を続ける玉子ですが、ある出来事がきっかけで色々なことの価値を見直すことになります。

仕事、結婚、友人関係、そして自分の両親に起きたことで生まれた自分の価値観について……全く同じことはないにしても、人間誰しも一度は悩んだことがあるテーマかも知れません。

そして、玉子自身も劣等感を相方となったしっかりものの女性、麗子に抱いていますが……読者の方々の中には、他ならぬ主人公に劣等感を覚えた方もいらっしゃるのではないでしょうか?(私です)

彼女に劣等感を覚えた人も、そうではない人も、とあるものが原因です。そして、このとあるものについて劇中では様々な視点から見つめていくことになります。

様々な人に劣等感を抱いていくものの、裏にある真実や、信念、そして自身の誤りを悟った時、彼女は”色々なことをする本当の理由”を見つけていくのです。

Nテーマ「苦労」について

さてNテーマについてです。

この物語ではたくさんの「苦労人」が登場します。

他ならぬ主人公である玉子も読んでいただければわかりますが、かなりの苦労を乗り越え、弁護士となりました。

しかし、物語が進んでいく中で、彼女は想像以上に自分が物事を単純に考えており、様々な人達を知っていくにつれて自分が楽だと思っていたり悩みなんて持っていないと思っている人いろんな【苦労】を抱えていることを知っていきます

表向きは楽そうに見えていたり、あるいは【苦労】なんて露ほども感じさせなくても、ちょっとしたきっかけで見たたった一つの側面が、他者の計り知れない痛みを理解できることがあるのです。

そして、他者の【苦労】を通じて自分の【苦労】を見た時に答えが出せることもあります。

苦労というのはどこかポジティブさも併せ持っています。まあそれこそ単純に言ってしまうと「苦労している方が偉いから」みたいな認識が社会にも一個人にも存在しているからです。そして、苦労を理由に優越感にひたる、あるいは、何かしらの正当化をする理由にするといった行動を人は無意識に行ってしまいます。そして他者の【苦労】からついつい目を逸してしまいます。

しかし、案外自分の【苦労】を減らしたいのであれば、他者の【苦労】に目を向け、そしてまた考えてみるのが良いかも知れません。

なんのため【苦労】なのか。

本当に必要なものなのか。

そもそも本当に”これ”は【苦労】なのか。

物語の玉子の視点から、自分の【苦労】を見通し、理解する助け、あるいは手本になると思います。ぜひ、考えてみてください。

ただ、毎回言っているような気がしますが……「他の人が頑張っているんだから自分ももっと頑張らなきゃ駄目だ」みたいな考えはほどほどにしてください。(むしろやらなくてもいいぐらいです)

【苦労】というのを誇るのもいいとは思いますが、これもまた他者との兼ね合いの元、調整し、理解していくものと言えるでしょう。

チョコットダメ出し

上記で述べたようにこの本のテーマの一つは、「人には見えない苦労がある」「単純化してはいけない」というものがあるのですが、残念ながらとある存在に対しての偏見がひどいです(ネタバレなので言えませんが)登場人物の意見≠作者の意見ではないので批判は筋違いですが、何が「善」で何を「悪」と断ぜず、ただ”とある存在”について全てを悪いものとみなすのは少し矛盾点かなと思いました。

最後に

ちょっと異色のミステリー、そして企業や社会、そして玉子の悩みを通じて、人生論について考えさせられる物語という印象を抱きました。

「先が見えない」「テーマが斬新」「人生を深く考えられる」といったサスペンスとしても純粋な一つの物語としても読む価値は十分にあったと思いました。

企業勤めの人もそうではない人も、非現実的なようで、しかしなかなか他人事とは思えない気分を味わってみてください。

もちろん、決して明るい物語ではありませんが、少なくともほどよい量の希望を感じさせられます。

とはいえ、やや長めなので、休日等の読書をオススメいたします。

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