[姉妹]がテーマ!!【不仲】がNテーマ!!『骨肉』著 明野 照葉 ギスギス三姉妹に新しい風が入る!!一体、何者なのか!?そもそも父親はどうしたいのか!!兄弟姉妹仲が悪い方々には特に面白い作品です。

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その他

オススメできる人

  • 「兄弟仲は良くて当然!」
  • 「真面目に生きていればいつかきっと……」
  • 「ギャルなんてわがままなだけじゃん」

と思う方がはこの本を読めば……

こういう家庭もあるのか……と面白おかしく思えます!

最初に

皆様にはお兄弟、もしくはご姉妹はいらっしゃいますか?

兄弟姉妹というのは各家庭に置いてかなり違いが出る要素ですね。非常に仲が良い場合もあれば、他人よりも仲が悪かったり、あるいは普通に義務的になんとなく一緒に過ごす関係だったりと様々です。たまにどちらの姉弟の関係がより最悪かなんていう「不毛な争い」に発展したりもしますね(笑)

「兄弟は自分に最も近い他人」なんて言葉もありますから、仲が良い根拠も仲が悪くなる根拠も本来はないはずなのですが、どうにも以前紹介した友達の幻想と同じように理想論を押し付けられる印象があります。

ちなみに私にも姉が二人いますがまあ、ぶっちゃけ言ってしまうとめちゃくちゃ仲が悪いですね。

上二人はそれぞれ仲良しなんですが、それぞれ私とは非常に仲が悪いです。で、全く関係のない赤の他人に「姉弟なんだから仲良くしろ」みたいに言われて溜息つくまでがワンセットとなっております。

いやー他人事って気軽に物事を言えて便利ですね(黒笑)

とにかく、家庭環境については人によって様々な事情があり、よほど自分に近い兄弟関係と思わない限りは口を出さないほうが賢明でしょう。そもそも対人関係というのはほどほどの距離感がちょうど良い場合もあったりするので、無闇に仲良しだったらいいとは限りません。

どうしても他人の問題を解決したいのならば、最低限、そういった姉弟に対する物語を読んでおくことです。もちろん読んだからもう何を言ってもいいみたいなフリーパスみたいな効果はありませんが、少なくとも関係がギクシャクするようなアドバイスなどはなくなるでしょう。

さて、今回の物語ですね。

とある父子家庭の三人の姉妹の物語です。私と負けず劣らず3人の仲は悪く、個性もバラバラ、生き方もバラバラ、考え方もバラバラとバラバラづくしです。会えばお互いの不満ばかりととても円満な家庭とは言えません。そしてそんな姉妹の元、一人の破天荒な少女が現れるという展開で物語は進んでいきます。

ただ、一つ言えることはこういった姉妹を決して珍しいものと考えないでほしいということもあります。そのための本としても役立つでしょう。

あらすじ

真子、聖美、美善からなる三姉妹はある日、実家の父親、貞春に呼び出されます。顔見るたびに喧嘩ばかりの三姉妹はお互いを見てはそれぞれの粗探しをする関係でした。

そして、集合したのにも関わらず、遅れてやってきた貞治は一人の少女を連れてきます。いかにもギャルっぽく振る舞い、口調も軽い少女を見て、困惑する三姉妹は思わずお互いに喧嘩を止めるほどでした。少女の名前は阿子、なんと父親が三姉妹を集合させた理由は、彼女を新しい妹として迎え入れるということだったのです。

そのあまりの身勝手っぷりや自由奔放さから姉妹は邪推します。

こいつは父親の遺産、金目的で来たに違いない……と。

阿子を追い出すために、様々な手立てを色々考えるのですが、ちょっとやそっとでは阿子はへこたらず、父親の貞春も決して考えを変えようとはしません。そして三姉妹たちは遺産の勉強や、阿子の周辺の調査、そしてそれぞれの苦手分野にも取り組むようになります。

三姉妹の戦いの結末は……そして阿子の目的は一体……。

共通の敵、そして金

金の延べ棒のイラスト

前にも紹介した映画でも話しましたが、一人では歯が立たない「共通の目的」もしくは「共通の敵」がいると、仲が悪かった存在が結託するようになるというのは歴史でもよくある話です。いわゆる「呉越同舟」というものです。言ってみれば、「敵」の存在が「橋渡し役」にもなるということですね。この物語の場合は目的は「金」敵は「阿子」と非常にわかりやすいです。

そして荒唐無稽で三姉妹から見ても読者から見ても単純なようで難しい彼女は「一人ではとても勝てない」「今のままじゃだめ」と三姉妹に思わせ、結束させました。良くも悪くも変化を生み出したわけです。

もっともまあ、共通の目的は「金」である以上、なかなか汗が美しい青春ものとか義理人情あふれる時代劇のようなスカッとした話ではなく、ドロドロサスペンスのような、それでいてコメディのような物語になるわけですが、少なくとも「金」だけではない何かを生み出していきます。

「阿子」という少女は敵でありながらも姉妹の橋渡し役にもなりました。決して相容れない、つまり、三姉妹の誰にも染まらない彼女だからこそ、「敵」にも「橋渡し」にもなりえたのです。

「相容れない」というのは決して悪いことだけではないということでしょうかね。

知っているようで知らない家族関係

「家族」のことだったらなんでも知っているというのが割と世間一般の暗黙のルールでありますが、知らないことのほうが多いこともあります。そもそも極論を言ってしまえば人は「自分」と「自分以外」にカテゴライズされてしまうので、「何でも知っている」はありえませんけどね。

例えば、仮に私が姉妹のことなら何でも知っているみたいなことを言い出したらそれはいわゆる「シスコン」とよばれて侮蔑される存在になりそうなので、やはりほどほどの距離感でいるのも悪くないと思うのですが……

三姉妹達もまた、阿子について調べているうちに、ただ真面目と思っていた父親の意外な側面に触れていき、そして、必要に迫られてたとは言え、三姉妹達のお互いについてもまた、知らないということを自覚していきます。趣味、好物、人間関係、仕事、収入etc……。

読んでいただければこの辺りにはっとする方々も多いのではないでしょうか。

確かに人間関係に置いては一緒にいる「時間」というのは重要な要素ではある一方、時間によって阻害され、知ることができないということもあります。そして、自覚できているようでできないのが厄介な点です。

「新しい人間関係が必要」「交流関係を広げるのが大事」というのはよく言われますが、それは「新しい人を知る」という側面を強く意識されがちですが、一方で別の人の目線や考えに触れることで「長く共に過ごした人の違う側面を知る」という部分も少なからずあります。

もちろんいい部分だけとは限りません。物語中でも三姉妹は、阿子という新しい人間を強制的に交流させられ、今までの貞春について悪い印象を加えられます。しかし、結果として悪い印象から様々なことを知ることになるのです。

そして、後半になって貞春が何を考えて阿子を姉妹にしたのか、という部分に繋がっていきます。

Nテーマ「不仲」について

さて、今回のNテーマですね。

決して相容れないという存在同士だった姉妹ですが、もっと異次元級に相容れない相手に対して結託することになります。そして必要に迫られたとは言え、それまで知らなかったお互いの能力、苦痛、悩みなどを知っていくことで3人の理解を深めていき、さらに様々な面で進歩していくことになります。

「敵」といってもお互いを高め合う素晴らしい関係……すなわち「ライバル」と呼ばれる存在もありますが、阿子が役割を果たしているのかもしれません。

ただ、実のところ「進歩」も決していい事だらけでは有りません。ノーベルが作ったダイナマイトが本人の意図を無視して戦争に使われてしまったように、個人の「進歩」も本人の望みとは違う方向へ傾く場合もあるからです。物語中でも進歩と思っていたことが実は厄介な問題に繋がっていました。

結局、どう転ぶかはなかなかわからないということですね。

結論としましては「不仲」は無理に解消、もしくは拒絶すべきではないが密接に付き合う必要もない、ということでしょうか。というのも「ライバル」と単純に自分にとっての害悪な存在である「敵」は判断が非常に難しい部分があるからです。もちろん、一緒にいたら致命傷になることがわかりきっているような人(この本の人たち)みたいな人たちに無理に付き合う必要はありませんが、阿子という少女の存在がどちらに該当するかは三姉妹はおろか、読者もすぐにはわからないでしょう。

余談ですが、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」なんて言葉がありますが、その人が嫌いだからといってその人全てを嫌う必要はありません。案外、不仲な人と同じことをやってみて自分の方がうまく言った場合、内心で「ざまあ」と言えたりもしますからね。我ながら性格悪いと思いますが。合わなきゃさっさとやめればいいだけです。

ちょこっとダメ出し

結末が人によってはちょっとスッキリしないかもしれません。もともと題材が題材なので明確な答えが出るものではないからです。まああとちょっとストレスになる描写も少ないかもしれません。すべて読み終わるとその辺りも良いスパイスになったりするのですが、過程がやや大変です。

終わりに

兄弟姉妹がテーマなのは変わりませんが、現実の世知辛さを感じる作品でした。

言ってしまえば「世間」という存在そのものがいうほど立派でも有りません。言ってしまえば何かを「期待」しすぎてしまうと落差で落ち込んだ時にひどい状態になってしまいます。

三姉妹は性格に問題がないとは言えませんが、決して怠け者でもなければ社会不適合者でもありません。彼女たちは彼女たちの理想を掲げ、そして理想や現実と相容れない他の姉妹と喧嘩をするのです。そしてお互いや世界に嫌気がさし、また自分たちの心に強大な壁を作ってしまいます。

理想は常に更新が必要です。そして更新するためには、やはりどこか壁を作っている自分に気づいて、ほんの少しでもいいから壁を壊す作業が必要です。

例えて見るなら「阿子」という存在は三姉妹にとってブルドーサーで様々な壁を壊す存在でした。そして対抗するために、壁にちょっとだけ穴が空いた形となりました。もちろんいいことだけとは限りませんが、確実に変化は起きたのです。

やはり、真面目なだけが人生ではなく、「壁を壊す人というのは様々な人間がなりうる」ということも本を通じて理解しました。

私も決して相容れず、忌々しいとは思っていますが、姉は姉で尊敬しているところはあるので、理想を更新し続けようと思っています。

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