オススメできる方
- 「障害を持つってどういうことなんだろう……」
- 「障害者って普通の人とはだいぶ違うんだろうな」
- 「目が見えなくなったらと思うとすごく怖い……」
この本を読めば……
「目が見えないってこういう世界なんだ……」と思えます。
最初に
不定期、電子書籍シリーズ、今回は木村敬一さんという方の自伝です。
生まれてからすぐに盲目となり、見える景色が全て闇となってしまった方がパラリンピックでメダルを取り、そして現在まで続く半生を書かれた作品です。
「選手としてこれまで」あるいは「障害者としてのこれまで」というよりは「あくまで木村敬一さんのこれまで」という全体的な部分を書かれた本でした。
何を学べるかと言われると、全体的に色々ですね。初めて障害を抱えたとき、障害者の方々が持つちょっとした技術、苦労、そしてパラリンピックで見た光景、アメリカでの世界……と様々です。
オリンピックの選手でもなかなか価値観が離れていたり、どこか気後れしてしまうものですが、パラリンピックの方だと特に違う世界観を抱いてしまいがちですが、非常に身近に感じるお話も多く、読みやすい物語でもあります。
さあ、目をつぶってください。何も見えないですか?私のブログも当然見えなくなりますよね?(もし見えたという方は超能力者のブログをおすすめします)怖いですよね?
でも、木村敬一さんにとっては他の人にとっては、恐ろしい闇の中に本で描く全ての世界があるのです。
障害者のため?健常者のため?
障害者が書いた方の本はいくつか読んだことがありますが、含まれやすいテーマは2つあります。1つ目は「同じ障害者に頑張って欲しい」ということ、2つ目は、「健常者の方に障害者をより知ってほしい」ということです。
以前紹介したこの本などは1つ目に当たりますね。
とはいえ、これがなかなか難しい問題です。これまた理由は2つあります。1つは「他人の立派過ぎる実績はかえって人を卑屈にさせてしまう可能性があること」もう一つは、「あまりにも健常者と障害者の生活の違いが外れすぎて理解が追いつかない可能性があること」ですね。
前者に関しては理由はほかなりません。「本を出版できている」という時点で十分すごすぎる実績だからです。後者に関しては……正直説明がいるのかなと思いますが、障害者となると、様々な医療診断や問題などが置きますが、一般人には関係がない問題ですからね。
まあもっとも、20代後半になるまで障害に気付けなかった人生出遅れ人間もいますがね(←コイツ)
『闇を泳ぐスイマー』は意図しているかはわかりませんが、私が考える上記の難点を払拭しようとしていると言えるでしょう。油断しているとこの人が障害を持っているというのを忘れるような現実感、あるいは健常者の方でもよく「あるある」と言いそうな場面を出しつつも、障害者の悩みや考えを書いているからです。
当人いわく気楽な人生だったようで、書き方に悲壮感はほとんどなく、お気楽に読めやすいと思います(だからといってもちろん木村さんの栄光や苦労を軽く見ていいわけでは有りませんが)
「点字」に関する話もよくあり、中には、点字の裏事情から、一つの技術と呼ばれるような技まで有り、障害者の障害を乗り越えていく力を見せられた気がしました。
油断すると「闇」すら忘れる「強さ」
最初に述べたとおり、木村さんは全盲で周囲が常に真っ暗という感覚なのだと思いますが、文面からはとてもそうは思えません。というより想像以上にアグレッシブというか積極的な方で、並の学生よりはるかにすごいことをしています。
優等生というわけでもなく、かなりはっちゃけたところもあり、寮から抜け出す、○○に挑戦するといった概念もガンガンしています。
もちろん、そのアグレッシブさがトラブルを招くこともありますが、月並みな言い方をしてしまうと、この積極性の幾分かはパラリンピックに出場するほどのエネルギー担っているのではないかと思います。
そして一方で普通の学生らしく悩んだり困ったりしている部分もあったりするのでたまに困った話が出た時に、「あ、そういえばこの人目が見えないんだった!!」となってしまいました。
全盲というハンデを何気ないように語っている、もちろん生まれつきの障害なので、本人にとっては(他の人が思うよりは)日常的なことなのかもしれませんが、他の人が恐れるものを恐れない「強さ」も感じ取ることができました。
最も、「強さ」もなかなか読んでいる途中では感じづらいのですけどね。
Nテーマ【障害】について
さて、Nテーマについてですね。まあタイトルは障害ですが、実際のところもう少し複雑です。
木村さんの悩みは、決して足し算ではありません。「目が見えない」ということ、「パラリンピック出場者」であること、そして後半での「海外生活」などがあります。それぞれの悩みを一つずつ、あるいは全て知っていたとしてもおそらく○○さんの悩みをすべてわかるとは言えないだろうと思います。
つまりは悩みがそれぞれ重なり合い、複雑な悩みを生み出しているということ、見出しでもあるいわゆる「掛け算の悩み」ですね。もちろん、解決しようとするときは一つの一つの悩みを分解して順番に処理していくというのがいい方法なのですが、他人の悩みを理解しようとするときは、この手は使えません。障害を持っている方の悩みを理解しようとするとなおさらです。
ましてや盲目の方でパラリンピックで海外生活となると……正直、どれほどのものか想像だにできないです。
まあもちろん、私が木村さんではないから完全にわかるわけがない、ということでもありますが、人の悩みというのは共感しやすい悩みと共感しにくい悩みというのものがあり、さらに他の悩みと繋がりやすい悩みと繋がりにくい悩みがあると思います。
自分の悩みは一つずつ引き算すればだいぶ軽くなりますが、人の悩みが同じとは限りません。もう一度言いますが、「目が見えないこと」「パラリンピックの選手であること」「海外生活をしたこと」について全てが繋がりやすく共感しにくい悩みとなってしまうと理屈ではなかなか理解できないところがあります。
だからこそ、このような自伝が必要なのでしょう。
チョコっとだけダメ出し
おそらく多くの人が期待しているであろう「パラリンピックに出るためのオススメの鍛え方」みたいなものは見受けられませんでした。そんなものはない、あるいは自然に感じ取ってくれと言われればそれまでですが、あくまで自伝という側面が強かったですね。まあそういう本は専門書に聞いたほうがいいということでしょうか。
終わりに
なんと言っても特徴は、やはり「目が見えない」という大きなハンデを背負いつつ、木村さんに全くといっていいほどネガティブ感がないことです。もちろん苦労されていたり、面倒だったりすることはあるみたいですが、全盲という「もし自分がなってしまったら……」と考えると非常に恐ろしい障害を彼はなんてこと無いように語ってくれます(もちろん先天的なものか、後天的なものかで障害の印象もまた変わってくるのは否定しませんが)
もちろん生まれついての環境などもあったり、あるいは副次的に他の障害を持ってしまう方もいらっしゃいますので、決して「全盲なんて恐れるに足らず」とまでいうつもりはありません。ただ、木村さんの場合は、様々な強さに繋がった障害になっていると思っています。
自伝やエッセイというものは、小説みたいな純粋な娯楽的かつ非日常を想像する力でもなく、ビジネス書みたいな明日から使える即効性のある技術力でもなく、総合的で理屈でない力を高めてくれる……というよりは力を分けてくれるイメージがあります。
そして、全盲という一般の方では想像できない、でも日常的、そしてスポーツ選手の秘めた力を確かに感じつつも、どこか本人のお気楽ともいえるようなポジティブ感等、学ぼうとすればいくらでも学べる経験が詰まっています。
とはいえ、木村さんはパラリンピック出場者とはいえ、経験者であっても専門家ではないので、彼の常識や理想に自分が当てはまらなくても気にする必要もありません。ちょっと気になったら手にとって見るというぐらいでもいいでしょう。少なくとも、ネガティブ感をポジティブ感にする助けになるのでしたらそれだけでも十分です。
「闇」は無という印象を持っていましたが、人がわからないだけでもっと大きななにかが眠っているのかもしれません。眠っているときにしか見れない夢のように。
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