テーマは「狂信」そして「???」 正義はあなたの味方ですか?正義の恐ろしさを知ることが出来ます。絶対正義 秋吉理香子

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オススメできる方

  • 女子グループの世知辛さを知っている方
  • 人間関係の怖さを知りたい方
  • 正義は常にあなたの味方だと思っている方

※当記事から私が思う作品のテーマを2つに分け、1つはタイトルですぐ紹介し、もう一つはブログの最後に紹介します。

あるいは当記事からいらっしゃった方、こんにちは。

今回のテーマの一つは「狂信」です。

もっとも怪しげな宗教を信じているのではありません、ごくありふれた感情、それも人々が当然のように信じている感情、「正義」をこの世で何よりも大切にする少女、そして彼女にまつわる人たちの物語です。

なら、なぜ「正義」がテーマじゃないのか疑問に思う方もいるでしょう。理由は簡単です。一般的な「正義の話」とは一線を引いた正義をネガティブで見る話だからです。

あらためて「正義」とはなんでしょうか。漠然と答えられる人は多くても、改めて問われるとかなり悩む方も多いでしょうし、そもそも「正義」は一つじゃないと思考停止してしまうこともありますし(私ですが)、ひとまずは法律を守ることという方もいますね。

少女がまさに「法」のもとに正義を執行しています。

さて、極度にネガティブな正義の物語が始まります。

あらすじ

売れっ子の小説家の和樹のもとに、一枚の手紙が届きました。結婚式の招待状と思われた淡紫色の手紙を開けて彼女は驚愕します。本来ありえない人物からの手紙だったのです。

そして、同じ手紙がかつて仲良しグループだった他の三人の元へも届いていました。しかし、届くはずがないのです。

殺したはずでした。守るべきもののために。

しかし誰よりも正義を愛し、正義を使いこなし、そして正義の元、人々を破滅に追いやった悪夢のような少女の名前、高規範子の名前はたしかに差出人の場所に書いてありました。

4人はそれぞれに、かつて彼女と一緒に過ごし、彼女に助けられ、しかし、やがて彼女を恐れていく過去を思い出していきます。まるで、何かを忘れたいがために。

正義の恐ろしさ

常に多くの方が味方と信じている正義ですが、正義が敵に回った時以上に恐ろしいものはありません。

なぜでしょうか?

正義は権威と繋がりやすいからです。何かあったとしても「正義のため」と言われてしまうと、多少の無茶は押し通してしまうほどの力を持ちます。学級委員から警察まで、子供だろうが大人だろうが変わりません。(最もだからこそ秩序が安定するという効果があるのですが)

そして、権威は欲望と繋がりやすいです。なんでも上から命令できるという力は自分の欲望を満たすために動きがちになってしまうからです。汚職という言葉は権威と欲望がつながることから始まります。

すなわち、正義は欲望と繋がりやすいというぱっと見、矛盾めいた公式がなりたちます。

つまりどういうことか。

正義の名のもとに合法的に欲望を果たせてしまうということです。

そして、厄介なことに高規範子の場合は、お金や名誉ではなく、正義を果たすことが目的であり、欲望であるので、うまいこと、自分の欲求を周囲に隠しつつ満たしているのが厄介なところです。

しかし、前回の例をまた出しますが、やはり正義と欲望と権威もまたスパゲッティとソースとチーズ並に絡みやすいですね。

イカスミスパゲティのイラスト
黒いのはイカスミです(2回目)

4人の望み

正義というと必然的に悪が浮かんできてしまいますがかつて高規範子の友達だった4人が悪だったかどうかというと実は極めて微妙な話です。

法的にグレーゾーンに差し掛かっている人もいますが、欲望や権力のためではなく、言ってみればより大きな善のために、あるいは大切なものを守るために動いていて、しかし、彼女達の行いは、一切の容赦なく悪と断じられました。もっと言うのならば何人かは法律の力で圧迫され、合法的に彼女の正義のために窮地に追い詰められたと言えるでしょう。

誤解を恐れず言ってしまうのならば、誰もがしてしまう可能性であり、そしてよほどの人物でなければ気にもとめないような悪事、あるいは正義を行使することを戸惑うようなことです。

4人が悪というよりは、正義のために悪にさせられたといったほうが良いでしょうか。法の問題点とも言えますが、ここで語る話ではありません。

大切なのは、裁かれるべきだったかどうかという話です。

彼女達の望みは誰かを不幸にすることでも、ぜいたくをしたい、人を見下したいといった俗物的な欲望を満たしたかったわけでもありません。

ただ、守りたいものや夢があっただけです。

それでも正義は果たされるべきだったのでしょうか。

そもそも高規範子は本当に正義でしょうか?

正義の恐ろしさを知ることができるとは書きましたし、もちろん嘘ではありません。しかし、読んだ方はわかると思いますが、範子のしたことが正義だったかどうかは人によって分かれると思います。彼女はあくまで”法”に極めて忠実で”法”を剣に、盾に、道具として扱っていただけです。

「法が正義じゃない」などとは言うつもりはありませんが、例えば、空想世界の話になりますが、アンパンマンがバイキンマンをぶん殴ってぶっ飛ばしたことを「暴行罪!!」と叫ぶキャラはいません。しかし、アンパンマンが正義ではないという人はおそらくはいません。(歌だと友達は愛と勇気だけみたいですけど)

とはいえ、彼女が正義心を満たしたかったのか、それとも、ただ攻撃本能を満たしたいだけだったのか、悩ましい問いです。彼女は”正義”の象徴というより”法”の象徴でした。強かったわけでもなく、ただ身近な人間を貶めたかっただけとも言えます。ひどく言うならば、法を盾にしたサディストですね。

しかし、それが悪い事とも言い切れないのがまた憎いところです。

少なくとも範子は正義の力を使って旧友や、一部の人間を救い、感謝された場面もありました。その時は範子に、そして彼女の持つ正義感に深い感謝を示しました。しかし、やがて彼女の内に秘めた正義でありながらも恐ろしい本性を目の当たりにした時、その正義に嫌悪感を示していきます。

上の流れを見ていると、彼女の正義はたしかに大いに問題がありますが、4人の級友たちが、というより、人全体が正義にご都合主義感を抱いてしまう、という部分も捨てきれず、彼女が正義なのかどうなのかを悩ませる問題になっています。

まあ、結論を言いますと「味方であるうちには正義、敵対した途端に独善」といったところでしょうか。

正義かどうかはやはり議論が分かれそうです。

そして、次の見出しで書きますが、とある結論が出ました。

総評

さて、少女の話で言うのならば、ただ残酷で、そして正義を命や感情よりも狂信的に愛する人物という評価で終わるでしょう。

しかし、これが「正義」という概念に変えてみるとどうでしょう。そして真っ先に該当するものがあります。

そう、SNSです。

人がなにか不祥事起こしたり、あるいは失言をすると真っ先に正義を振りかざした人たちが叩きに行きます。開き直っても炎上、謝罪しても何かで炎上、良いことをしていても過程が悪かったら炎上、家族を守るためでも他の何かを犠牲にしたら炎上、断片的に判断して炎上、などなど様々です。

単純に「正義」が悪いとかいうつもりは一切ありません、叩く人全てが「正義」を感じているとも私は思っていません。

本当に自分は「正義」を名乗るほどの資格はあるのでしょうか?誰かを攻めるほどの何かはあるのでしょうか?

まさにここに高規範子のような「絶対正義」論が確立しているように思えました。

とりあえず読んでみて私が望んでいることは唯一つ。

もし、正義を純粋に信じている方がいらっしゃいましたら。

基本的に正義を信じつつ、少しだけ歩み寄りの姿勢を持ってほしいということです。

悪いことは悪いと考えるのはこの際、構いませんが、悪いことがどうして起こったのか。ただ単にその人を攻めれば良いのか、そういったことを考え、味方になれる人は味方になって欲しいです。(犯罪の味方になれと言っているではないのであしからず)

もちろん世の中にはどうしようもない悪人や、救いようのない外道もいますからそこまで歩み寄れとは言いません。ただ、すべての人がほんの少しだけ自分に関係ないことでもあることでも少しだけ悪い方向に言った人の目線で物事を考えることができれば。

きっと、高規範子の人を破滅させるような正義にも打ち勝つことができるはずです。

ただ、難しいようならもう一つだけ結論があります。

正義を都合よく捉えないでください。

もしかしたら、強いポジティブ性の裏には全てのネガティブを超えたネガティブを秘めているのかも知れないのですから。

もう一つのテーマ

「呪い」です

余談

ちなみに私はこの本を読んで「星新一」の「正義薬」という物語と教科書にもよく載っているヘルマン・ヘッセの「少年の日の思い出」をなんとなく思い出しました。

なんでかは……まあご想像におまかせします。

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